2015年12月に寄稿した第1話である。本文にもあるように、世界的コンサルタントの大前研一さんの著書、敗戦記のタイトルを使わせていただきながら、体験談を語ることにした。記録と記憶の物語である。
プロローグ
思うところあって、20年前の著書『大前研一敗戦記』を読んだ。東京都知事選挙、参議院選挙における敗北から自身の学んだ体験を綴った本である。
この中で印象的なシーンがある。選挙応援をしてくれた加山雄三が、敗北後に「今日は黙って俺のことを聞け」と言って、大前に語ったという言葉である。少し長いが引用する。
「俺は選挙中、お前には何も言わなかった。あんなに一生懸命やっているのを見ると何も言えなかった。だけどね、あんた滑稽だよ」
「あんたの政策は素晴らしい。僕なんかが聞くとその通りだと思う。でも、あんたはまったく『底辺』の人々の心に触れていない。おまえさんの言うことはやっぱり『底辺』が唸るもんじゃねえ。ごく一部の知識人がなるほどと思うだけだ。僕は吉本興業にも、どこのプロダクションにも属してこなかった。それで35年間歌を歌って食べてきた。その意味では、大衆が何を考えているのか、自分が掴まなかったら、すぐに客がこなくなる。だから、あんたより大衆が考えていることには敏感だ」